居住用物件の立ち退き

立ち退き料はどれくらい請求出来るか?立ち退く必要はあるのか?こういった時に参考となるのが、裁判の判決結果である「判例」です。
「判例」は以後の裁判に影響を与えるものですので、裁判所以外での話し合いにおいても、判例を基にした要求は大きな説得力を持ちます。
ここでは、居住用物件の立ち退きに関する判例について紹介して参ります。

立ち退きの事情 その1

海外転勤終了による貸主と家族居住の為

物件

一戸建住宅

事案の概要

・貸主の海外転勤時に、転勤終了後に貸主が居住する約束で賃貸借開始
・賃貸借開始から10年以上経過後、貸主の海外転勤終了により帰国、賃貸物件へ住む為に、明け渡しを要求
・立ち退き要求時の家賃は6万5千円
・貸主、借主共に家族4人で生活
・貸主は他に居住用の不動産がなく、立ち退き要求時はアパート暮らし

判決

立ち退き料200万円の支払を条件に立ち退き要求を認める。

理由

・貸主家族4人が本件物件の明け渡しを受けられず、狭いアパート暮らしを強いられていることは酷である。
・ただ、賃貸借の開始から10年以上経過していることで、「一時使用の為の賃貸借」ではなく、「通常の賃貸借」と認められ、居住地に生活基盤を築いていることも認められる。
・しかし、借主家族4人が居住できる借家を、他に探すことは困難ではなく、立き退き料を払うことで正当事由があると認める。

昭和56年1月30日 東京地裁

立ち退きの事情 その2

海外帰国後の貸主の自己居住

物件

マンション

事案の概要

・貸主の海外滞在期間中のみという契約で賃貸借を開始。
・賃貸借開始から4年後、貸主の帰国により立ち退きを要求。
・貸主からの立ち退き料提示額は60万円、または裁判所の認める額
・借主は、350万かけて内装工事を行っているとの理由で立ち退きを拒否。
・貸主には他に住居がなく、親戚宅に住んでいる。
・立ち退き要求時の家賃は0円。(当初は10万円)

判決

正当事由が認められる為立ち退き料は0円

理由

・最初から海外滞在期間中のみの契約で、貸主が帰国した際には明け渡すことで合意ができていたこと。
・帰国後、貸主が居住している親戚の家は、貸主とその家族が生活できる広さではないこと。
・貸主が、他に居住できる不動産を所有していないこと等から、貸主の立ち退き要求には正当事由が認められる。

昭和60年2月8日 東京地裁

立ち退きの事情 その3

老朽化による賃貸マンションへ建替えの為

物件

アパート(築47年経過)

事案の概要

・立ち退き要求時は6世帯が入居中
・立ち退き要求時の家賃は2万6500円
・貸主は経済的に困っており、建替えによる有効活用の必要性が高い
・借主側も高齢・病弱などでアパートからの移転が難しい
・貸主は、一世帯平均347万円の立ち退き料を提示

判決

立ち退き料一世帯平均522万円の支払を条件に立ち退き要求を認める。

理由

・貸主が経済的に困窮しており、建替えによる有効活用の必要性はある。
・借主側は高齢・病弱など本件アパートへの居住の必要性は高い。
・賃貸借開始時から借主側に、賃料の滞納など不誠実な対応はない。
・しかし、昨今の住宅供給状況や、当事者の話し合いの経過から、借家権価格・移転費用・その他個別の事情を考慮して立ち退き料を決定

昭和57年7月19日 大阪地裁

立ち退きの事情 その4

老朽化による倉庫兼居宅へ建替えの為

物件

平屋住宅(築60年以上経過)

事案の概要

・借主は50年近く本件建物へ居住
・立ち退き要求時の家賃は6,914円
・老朽化の程度は相当であり、大修繕を必要としている
・借主はパート・年金により妻を養っており、経済的に厳しい
・貸主は、立ち退き料として200万円を提示している

判決

立ち退き料700万円の支払を条件に立ち退き要求を認める。

理由

・建物は大修繕を要しているが、費用と修繕後の建物の状況を考えると修繕は現実的でない。
・借主は50年近く住んでおり、地域に密接した関係を築いている。
・借主の家族構成、収入から無条件での明け渡しは困難。
・借家権価格を2810万円と算定、借家権価格の4分の1を立ち退き料と決定

昭和63年9月16日 東京地裁

2010年12月20日 |

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立ち退きを迫られたら

まずは貸主から立ち退きを要求されている事情が「正当事由」として認められるかどうかを確認する事になります。

具体的には、賃貸借契約の種類、立ち退きの事情、立ち退きの条件、契約違反の有無、これらを総合的に考慮して、正当事由の有無を判断することになります。
正当事由に該当するか分からない場合は専門家へ相談して確認してみましょう。

ここで立ち退きに応じてしまうと、正当事由がない場合でも立ち退くことになってしまいます。
貸主などから署名や捺印を求められた場合、どんな書類なのか特に慎重に確認するようにし、分からない場合の即答はしないようにして下さい。

正当事由があった場合

この場合、貸主から立ち退き通知が届いてから6ヶ月~1年の間で賃貸借契約が終了しますので、賃貸借契約が終了するまでに立ち退く事になります。

正当事由がなかった場合

この場合、貸主へ「立ち退き拒否」または、「立ち退き料」を請求することが出来ます。
立ち退き料の決め方ですが、具体的な決まりはありません。
判例や借家権価格などが目安となりますがこれはあくまでも目安であって具体的には貸主の事情と借主の事情や話し合いで決められていきます。
借家権価格=(更地価格×0.5~0.7×0.3)

立ち退きでよくある誤解

「書面で通知」することで6ヶ月後に賃貸借契約は終了すると誤解している方が多いようです。
正確には、「正当事由」「書面での通知」この2つが必要です。
立ち退きに合意してしまった場合や賃貸借契約の種類によっては、正当事由がなくても立ち退く必要がありますが、基本的には「正当事由」がなければ立ち退く必要はありません。
貸主の立ち退き要求には「正当事由」が必要と覚えて下さいね。

立ち退きの通知を受けて、お困りの方へ

渡辺健太行政書士事務所では、立ち退き通知を受けた方のお悩みに関して、立ち退きトラブルの無料相談を実施中です。お電話・メールにて、お気軽にお問い合わせください。

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