店舗物件の立ち退き

立ち退き料はどれくらい請求出来るか?立ち退く必要はあるのか?こういった時に参考となるのが、裁判の判決結果である「判例」です。
「判例」は以後の裁判に影響を与えるものですので、裁判所以外での話し合いにおいても、判例を基にした要求は大きな説得力を持ちます。
ここでは、店舗物件の立ち退きに関する判例について紹介して参ります。

立ち退きの事情 その1

自己居住を理由とした立ち退き(喫茶店)

物件

店舗兼居宅の店舗部分(1階に店舗、2階に貸主居住)

事案の概要

・建物2階部分には貸主家族4名が居住。子供の成長で手狭になってきた事から立ち退き料の提示と共に明け渡しを要求
・貸主が提示した立ち退き料は300万円
・借主は1階部分で喫茶店を営業しているが、賃料の支払いが度々遅れていた。
・立ち退き要求時の賃料は2万円

判決

立ち退き料400万円の支払を条件に立ち退き要求を認める。

理由

・借主が喫茶店の収支に関する証拠を提出せず、賃料の支払いが度々遅れていたことから、喫茶店の利益はそれほどではないと推測できる。
・現在の支払い賃料と適正賃料との差額、近隣で同程度の喫茶店を新規開業する場合の費用、保証金、その他の事情を総合的に考慮して立退き料を算定。

昭和63年2月12日 横浜地裁

立ち退きの事情 その2

老朽化による建替えの為の立ち退き(食料品販売店の営業)

物件

木造建物

事案の概要

・建物は築70年が経過
・賃貸借開始から70年と長年の経営実績がある
・立ち退き料の提供または建替え後のビルへの入居があるなら応じる考え
・貸主が提示した立ち退き料は654万円
・立ち退き要求時の賃料は10万円

判決

立ち退き料654万円の支払を条件に立ち退き要求を認める。

理由

・建物の老朽化や貸主の必要性は認められるが、借主も長年営業している事を考えると無償での立ち退きが認められるかは疑問。
・申し出のあった立ち退き料は、借家権価格、営業補償などを含むもので妥当な立ち退き料と言える。

平成9年10月29日 東京地裁

立ち退きの事情 その3

老朽化によるビルへの建替えの為の立ち退き(薬局の経営)

物件

木造2階建て(1階は薬局の店舗、2階は物置)

事案の概要

・建物は築60年以上が経過
・賃貸借開始から40年以上が経過
・建物の老朽化が激しく、地盤崩壊の危険性もある
・借主は他にも不動産を所有
・立ち退き要求時の賃料は9万2千円

判決

正当事由が認められる為、立ち退き料は0円

理由

・借主は長年薬局を経営しており、今後も使用の必要性は認められるが、老朽化が激しい。
・借主は他にも不動産を所有しており、移転先を見つけることは不可能ではない。
・貸主が生活基盤となるビルを建築する必要性が高く、その他の事情を考慮すると、貸主の要求には正当事由が認められる。

平成3年11月26日 東京地裁

立ち退きの事情 その4

生活資金確保の為の売却による立ち退き(美容院)

物件

木造建物

事案の概要

・建物は築37年が経過。
・賃貸借開始から27年経過
・貸主家族の病気看護、貸主の定年退職後という事情から資金の必要性が認められる
・貸主が提示した立ち退き料は200万円
・立ち退き要求時の賃料は7万円

判決

立ち退き料300万円の支払を条件に立ち退き要求を認める。

理由

・貸主に売却の必要性が認められるので、借主へ立ち退きによる損失が補填されるなら要求は認められる。
・移転費用、移転先との賃料差額、休業補償などを考慮して算定。

平成17年9月30日 東京地裁

2010年12月24日 |

タグ: | カテゴリー:立ち退きの判例

立ち退きを迫られたら

まずは貸主から立ち退きを要求されている事情が「正当事由」として認められるかどうかを確認する事になります。

具体的には、賃貸借契約の種類、立ち退きの事情、立ち退きの条件、契約違反の有無、これらを総合的に考慮して、正当事由の有無を判断することになります。
正当事由に該当するか分からない場合は専門家へ相談して確認してみましょう。

ここで立ち退きに応じてしまうと、正当事由がない場合でも立ち退くことになってしまいます。
貸主などから署名や捺印を求められた場合、どんな書類なのか特に慎重に確認するようにし、分からない場合の即答はしないようにして下さい。

正当事由があった場合

この場合、貸主から立ち退き通知が届いてから6ヶ月~1年の間で賃貸借契約が終了しますので、賃貸借契約が終了するまでに立ち退く事になります。

正当事由がなかった場合

この場合、貸主へ「立ち退き拒否」または、「立ち退き料」を請求することが出来ます。
立ち退き料の決め方ですが、具体的な決まりはありません。
判例や借家権価格などが目安となりますがこれはあくまでも目安であって具体的には貸主の事情と借主の事情や話し合いで決められていきます。
借家権価格=(更地価格×0.5~0.7×0.3)

立ち退きでよくある誤解

「書面で通知」することで6ヶ月後に賃貸借契約は終了すると誤解している方が多いようです。
正確には、「正当事由」「書面での通知」この2つが必要です。
立ち退きに合意してしまった場合や賃貸借契約の種類によっては、正当事由がなくても立ち退く必要がありますが、基本的には「正当事由」がなければ立ち退く必要はありません。
貸主の立ち退き要求には「正当事由」が必要と覚えて下さいね。

立ち退きの通知を受けて、お困りの方へ

渡辺健太行政書士事務所では、立ち退き通知を受けた方のお悩みに関して、立ち退きトラブルの無料相談を実施中です。お電話・メールにて、お気軽にお問い合わせください。

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